ブラジルの若者たちと、犬と猫。

 

私が小学生の頃、家のすぐ近くにガラス工場があった。

出稼ぎのブラジル人が多く働いていて、犬の散歩で敷地内(何故か部外者も通ることができた)を歩いていると、ブラジル人の若者たちに引き止められ、犬をずっと撫でられ足止めを食うことが偶にあった。

知らない外国人、しかも大人の人に囲まれて通じない言葉で話しかけられたりするのは、当時七歳か八歳の子供だった私には、実は少しストレスだった。でも、道を渡る時に拙い日本語で「気を付けて」と声をかけたり、私にロッテのグリーンガムをくれたり、何より犬を可愛がる様子から、彼らはおそらく善良な人たちだろうと判断していたので、怖いとか嫌いという感情は湧かなかった。

 

犬の散歩コースには、彼らが住んでいる二階建てのアパートもあった。春や夏はいつも窓が開けっぱなしで、網戸とレースのカーテン越しに、時々食べ物の匂いと、ブラジル語の歌、中国人一家のよく響く早口の会話なんかが聞こえてきた。こんな田舎の、田圃道の、近くには日本人が住む瓦ばりの屋根の家しかないような土地で、その一角だけブラジルだった。面白かった。

 

ガラス工場は何年も前に潰れてしまい、しばらく跡地だけが残って廃墟のようになっていた。立ち入り禁止だったので割れた窓ガラスから中を覗いてみたことがあるが、とても広くて天井が高く、でもがらんとして埃がすごかった。そういえば、小学一年生の時に学校の職場見学で訪れたことがあったなと今思い出した。おみやげに、ブーツの形をした蓋付きのガラス瓶をもらったなあ、と。今は建物は潰されて綺麗になっている。

 

 

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アパートは今もある。

もはや誰も住んでいなさそうなのだが、「貸し倉庫。住むことも可能です。風呂なし」というような張り紙がしてある。

やはり窓ガラスは割れていて手入れも何もされていない。母は不審者や犯罪者が勝手に住みついても誰も気付かないんじゃないかと不安がっている。

ずっと前に通りがかった時、野良猫が何匹か窓から出入りしていたのを見た。

 



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